オクラホマ大学が中心となった学際的かつ国際的な研究で、次世代の下水処理・再利用システムに使える活性汚泥マイクロバイオームへの理解が深まった。下水の処理と再利用は、2050年には100億に達するといわれる世界人口を支え、その健康を維持するために欠かせないものである。「2014年5月に、われわれは水のマイクロバイオームの研究と教育を世界規模で推進するための国際協力と情報交換の場としてグローバル水マイクロバイオーム・コンソーシアム[1]を設立した」とオクラホマ大学のJizhong Zhou環境ゲノミクス研究所長は言う。Zhou所長は同大学総合科学部ジョージ・リン・クロスリサーチ教授、同大学ギャログリー工学部非常勤講師、ローレンス・バークレイ国立研究所非常勤シニア・サイエンティスト、および清華大学非常勤講師も兼ねている。
Zhou所長はさらにこうつづける。「ほかのいくつかの国際的な取組では、微生物のサンプルを得るのにボトムアップのアプローチを使っているが、われわれのコンソーシアムはそれらと違って、トップダウンのサンプリング戦略を採用し、近代都市に欠かせないインフラである下水処理施設における活性汚泥のマイクロバイオームに的を絞った。これには111人の調査員が参加し、6大陸23ヵ国の86都市における269下水処理施設からサンプルを得ることができた(下図)」
図 サンプル採取都市の分布
(出典:Global diversity and biogeography of bacterial communities in wastewater treatment plants)
これまでにない成果
今回の調査では、これまでにないいくつかの成果が得られた。
- 活性汚泥マイクロバイオームの世界的な多様性と生物地理を調べるための、初の総合的かつ高度に組織化された取組が実現した。
- 新種で構成される最大10億の微生物ファイロタイプを含むきわめて多様な活性マイクロバイオームを記録した。
- 活性汚泥の性能に関係する活性汚泥微生物コミュニティのグローバルな中核的分類群を特定した。
- 活性汚泥マイクロバイオームが他の生息域のマイクロバイオームとはっきり異なることを明らかにした。
- 活性汚泥コミュニティの構成と機能を決めるメカニズムの理解が得られた。
この研究の意義
下水処理施設では毎日、下水が活性汚泥プロセスによって処理され、それがまた環境に戻されて利用されている。この処理プロセスは1世紀以上にわたって使われ、現在では世界で最も多く利用されているバイオテクノロジーだが、それにもかかわらず、世界の活性汚泥マイクロバイオームのマップをつくる試みはこれまで皆無だった。活性汚泥マイクロバイオームの生物多様性をその性能との関連で根底から理解することは、この重要な技術を健全な環境の維持のために進化させ、最適化する上で欠かすことができない。アリゾナ州立大学のBruce Rittmann環境バイオテクノロジー・バイオデザイン・スエット・センター長はこう述べている。「この前例のない世界的なサンプリングの取組は、活性汚泥の微生物学に新たな洞察をもたらしてくれた。大きな地理的相違にもかかわらず、活性汚泥の微生物コミュニティには28種類ほどの菌株から成るコアの部分があり、このことは、活性汚泥プロセスの強力かつユニークな生態選択を反映している」
また、カリフォルニア大学バークレー校のFred and Claire Sauer教授とローレンス・バークレー国立研究所の非常勤シニア・サイエンティストを兼ねるLisa Alvarez-Cohenはこう述べている。「この広範な調査は、世界中のコミュニティから毎日排出される下水の生物学的処理にかかわっているきわめて有益な微生物コミュニティについて、その基本的な構造と機能を理解する目的でなされた系統的な調査としては初めてのものだ。これは、このきわめて重要な微生物コミュニティを理解し、維持していく上での大きな進歩だ」
なお、この研究をまとめた論文、Global Diversity and Biogeography of the Bacterial Communities In Wastewater Treatment Plants(下水処理施設における微生物群集の世界的多様性と生物地理学)が、Nature Microbiology誌上で発表された[2]。
[2] Linwei Wu et al., Global diversity and biogeography of bacterial communities in wastewater treatment plants, Nature Microbiology
https://www.nature.com/articles/s41564-019-0426-5