Ceres、世界の水リスクへの適応を食品・飲料企業に求める報告書を公表――水リスクへの取組では、Unilever、Coca-Cola、General Millsが上位に

持続可能性を訴える非営利団体Ceresは2015年5月7日、“Feeding Ourselves Thirsty: How the Food Sector is Managing Global Water Risks*1”(渇きの時代の食糧確保:食品業界は世界の水リスクにいかに対処しているか)と題する報告書を公表した。報告書は、米国の大手食品企業は地球の限られた水資源をより効率的に利用するための取組を格段に強化する必要があるとしている。

効果的な水の利用で37社をランク付け

この報告書は、米国の大手食品企業37社を、貴重な淡水をいかに効果的に使っているかでランク付けしている。それによると、事業活動のなかで水リスクへの広範な取組をしている企業は、Unilever、Coca-Cola、Nestlé、PepsiCo、General Mills、Kelloggなど比較的わずかで、ほとんどの企業は持続可能な水利用には程遠い状態だという。なお、採点項目は以下の4項目に大別される。

  • Governance and Management
  • ŸDirect Operations
  • ŸManufacturing Supply Chain
  • ŸAgricultural Supply Chain

報告書の共著者のひとりでCeresの水プログラムのシニア・ディレクターを務めるBrooke Bartonはこう述べている。「世界中で見られる水不足と水質汚染といういわば双子の困難な状況が、食品企業の収益性と、食糧と水の長期的なセキュリティをおびやかす緊急事態を引き起こしつつある。だが、よいニュースもある。それは、これまでより多くの食品企業が、こうしたリスクへの対処をはじめていることだ。しかし、そうした取組は、特に農産物のサプライ・チェーンに関してはさらに真剣で広範なものにしていかなければならない」

報告書は、パッケージ食品、飲料、食肉、および農産物の4つの業種において、水不足が、たとえば操業をさまたげたり、成長を制限したり、あるいは農産物の価格を上昇させたりすることによって、食品企業の収益性や競争力にどのような影響をおよぼしているかを検討し、食品企業37社のそれぞれについて、水リスクの予見と軽減のためにどのような対応をとっているかを、100点満点で採点している。採点結果は、最も高かったのがUnileverで70点、最も低かったのがMonster BeverageとPinnacle Foodsでそれぞれ1点だった(下図)。業種別の最高点獲得企業は、Unilever(パッケージ食品:70点)、The Coca-Cola Company(飲料:67点)、Bunge(農産物:29点)、Smithfield Foods(食肉:33点)だった。37企業すべての採点結果は以下のウェブ・ページに掲載されている。
http://www.ceres.org/foodwaterrisk#scores

201505027a図 米国の大手食品企業における水リスクに対する取り組みの採点結果
ポイントが高い企業ほど水リスクへの対応が優良であることを示す
(出典:Ceres報告書よりEnviX作成)

本報告書は、ますます激しくなりつつある各セクター間の水の取り合いが、政府の弱腰の規制、悪化する水質汚染、それに深刻さを増しつつある気候変動の影響と相俟って、食品業界に未曾有の水セキュリティ・リスクをもたらしていることを明らかにしている。カリフォルニア州では、すでに推定で50万エーカーの農地が、長期化した旱魃によって休耕を余儀なくされ、そのため、農業部門に10億ドル(約1200億円)を超える経済損失が生じている。ブラジル、メキシコ、中国など、他の主要な成長地域も、同じような水リスクに見舞われている。

具体的な採点結果

水リスクへの対応に関する各企業の採点をもとに、Ceresの報告書は以下のような集計結果を示している。

  • 多くの企業が水リスクをコーポレート・ガバナンスの優先事項と捉えているにもかかわらず、水リスクに関する取締役会の監視機能がこの問題についての全社のパフォーマンスにうまくつながっていない。取締役会に水リスクに関する監視機能がある16社のうち、60%が35点未満の得点だった。
  • 水リスクを主要な事業計画の立案および投資の意思決定の要素のひとつと考えている企業はわずか30%だった。水利用の効率を改善するための資本支出の投資収益率(ROI)の分析に水の「真のコスト」、すなわちシャドー・プライスを用いている企業はNestléとUnileverだけだった。
  • 多くの企業(23社)が直接事業における水リスクの評価をはじめているが、3分の2(22社)は、水リスクの大部分がそこに存在する農業サプライ・チェーンにおける水問題を依然として評価していない。
  • 水質問題は企業にとって優先度が低い。わずか2社――Coca-ColaとNestlé――のみが、廃水の排出量削減と法定基準より厳しい水質改善について目標を定めている。ほとんどの企業が、所在地の廃水排出規制を遵守している事業所の割合を明らかにしていない。
  • 水問題を対象とした持続可能な農業ポリシーをもっているのはわずか16%(6社)にすぎない。水問題への責任ある取組をしている農家から大半の農産物を買う目標を期限付きで設定しているのは、Coca-Cola、General Mills、Kellogg、およびUnileverの4社のみである。
  • General Mills、Keuring Green Mountain、Unilever、およびWhiteWave Foodsの4社が、契約栽培農場に持続可能性向上のために資金面での支援をしている。こうした支援には、持続可能性の高い方法で栽培した作物に対する割増金の支払いのほか、機器導入のための有利な条件での融資や無利子の貸付などが含まれる。

水リスクについて、General Millsの持続可能性部門のEllen Silvaシニア・マナージャーはこう述べている。「グローバルな食品企業として、われわれは水資源の保護がわが社のビジネス、すなわち、われわれの消費者、顧客、農家、それに事業遂行に欠かせないことを認識している。水は、コミュニティ、農業、そして商工業にまたがる複雑な問題であり、それゆえに、解決へ向けて前進するには協力が不可欠だ。この報告書が、他の企業も水リスクの評価を実施してこの協力の輪に加わるための呼び水になればと思っている」

報告書のおもな提言

報告書は、食品企業が、水利用の効率と水質を自社のみでなくサプライ・チェーン全体を通して改善することを通じてリスクを低減し、水資源を保護するために何をなすべきかについて、以下のような提言をおこなっている。

  • 水リスクの重要性に関する取締役会の監視機能を強化し、理解を増す。
  • 水リスクについて、製造施設から農場にいたるまでしっかりとした分析を実施する。
  • 水源域の健全性を向上させるプロジェクトに投資し、持続可能な水管理を確保するための政策を支援することにより、水源域レベルのリスクに対処する。
  • 農業サプライ・チェーンにおける水リスクやその影響の問題に、農家と共同で取り組む。
  • 水リスク、それに関連する取組状況、および経営計画について、投資家などのステークホルダーへの情報開示を改善する。

報告書はまた、投資家やアナリストが食品企業の水利用と管理の実態について評価する際にそれを手助けするよう勧告している。

*1 http://www.ceres.org/resources/reports/feeding-ourselves-thirsty-how-the-food-sector-is-managing-global-water-risks/at_download/file