米EPA、全国汚染物質排出防止制度における水質取引について意見募集

米環境保護庁(EPA)は2019年9月19日付の官報で、全国汚染物質排出防止制度(NPDES)に水質取引を導入して水域ごとに排出削減の「ベースライン」を設ける仕組みをめざしていることを公表し、これについて同年11月18日までの意見募集を開始した。ここでいうベースラインとは、現在NPDESの対象となっていない農地などの非点源(一地点に特定できない汚染発生源)からの汚染に対し、EPAが認めている総合最大負荷日量(TMDL)を基準に設ける排出削減目標値のことで、これを超える排出削減をした者にクレジットが付与され、このクレジットが水質取引の対象となる。

EPAの考え

EPAのAndrew Wheeler長官は2019年9月5日、ワシントンDCを含むチェサピーク湾河口域の水質改善のためのチェサピーク湾プログラムの最高執行評議会の会合に出席し、水質取引が汚染流域浄化のための強力なツールになるという見解を示した。同長官はまた、特に非点源排出者である農業者にとって、水質取引が規制を上回る大幅な排出削減への動機づけになることを強調した。EPAはまだ水質取引の具体化に向けて意見募集をしている段階だが、州によっては、すでに独自の水質取引市場の創設に向けて動き出しているところもある。だが、EPAは、州の境界を越えた全流域規模の水質取引市場が好ましいとしている。

大規模流域を対象とした水質取引の問題を指摘する声も

EPAの考えている巨大な規模の流域をカバーする水質取引には危険が潜んでいるのではないかと懸念する声もある。非営利団体であるチェサピーク湾基金のWilliam C. Baker理事長は、水質取引の範囲を大きくしすぎると、ある水域はきれいになってもほかの水域が以前よりも汚染されるおそれがあると指摘する。たとえば、チェサピーク湾に注ぐすべての川の流域全体を水質取引の対象範囲にすると、ボルチモアのパタプスコ川に面した工場が、数百マイル離れたサスケハナ川流域の農業者からクレジットを購入することで前よりも多くの汚染物質を川に流せることになってしまうとBaker理事長は言う。

なお、この件に関する官報記事は以下のURLで読むことができる。
https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2019-09-19/pdf/2019-20324.pdf