水圧破砕廃水の放射能、鉱山酸性排水で低減可能

デューク大学(ノースカロライナ州ダーラム)の研究チームは、2013年11月22日、水圧破砕の廃水に含まれる放射能の低減に、鉱山酸性排水が役立つとする論文 を発表した。この研究について、同大学の環境ニコラス・スクールで地球化学と水質学を専門とし、論文の共著者でもあるAvner Vengosh教授はこう述べている。「水圧破砕廃水も鉱山酸性排水も、それぞれ環境と健康にリスクをもたらすことはよく知られている。しかし、実験の結果、これらふたつを適切な比率で混ぜ合わせることにより、水圧破砕廃水に含まれる汚染物質を固形化し、河川に流す前に除去できることがわかった」

淡水源の減少防止にも寄与

この研究ではまた、水圧破砕廃水を鉱山酸性排水と混ぜることにより、それを水圧破砕用のリサイクル水の水源として使うことが可能になり、現場周辺の淡水源の減少を防止するのにも役立つことが明らかになった。
Vengosh教授はこう述べている。「アメリカの多くの地域、それに水圧破砕がこれからはじまろうとしている世界の他の地域において、それがもともと乾燥地帯であったり、またそうでなくても渇水期であったりした場合には、淡水の不足がシェール・ガスの開発にとって大きな制約となるおそれがある。鉱山酸性排水など、リサイクル水やマージナル・ウォーターの水源となる水を利用することは、この問題の解決につながり、淡水源の減少防止に役立てることができる」

研究の経緯

デューク大学のVengosh教授らのチームが2013年におこなった研究では、マーセラス頁岩層の水圧破砕廃水を通常の方法で処理しても、有害物質を部分的にしか除去できないことが判明している。こうして処理された水圧破砕廃水は河川に戻され、廃水注入地点付近の河川堆積物に放射性物質などが蓄積することになる。
いっぽう、鉱山酸性排水は、アパラチア盆地では石炭の廃坑からいくつもの河川に流れ込んでいる。この酸性水は動植物や人間にきわめて有毒で、ペンシルヴェニア州やウエストヴァージニア州の多くの河川の水質に悪影響をおよぼしている。現在、マーセラス頁岩層のシェール・ガス開発がおこなわれている場所の多くは、かつて大量の石炭が採掘された地帯にあり、そのため、鉱山酸性排水を淡水の代わりにシェール・ガス採掘のための水圧破砕に使えるのではないかと言う専門家もいた。
この可能性をたしかめるため、Vengosh教授らのチームは、マーセラス頁岩層の水圧破砕廃水と鉱山酸性排水をさまざまな比率で混ぜ合わせた。これら水圧破砕廃水や鉱山酸性排水はすべて、シェール・ガス採掘業者によってペンシルヴェニア州西部で採取され、研究チームに提供されたものである。
これら26種類の混合液について、混ぜ合わせてから48時間後、化学成分と放射性物質の成分の分析がおこなわれた。また、混合後にどのような物理化学的反応が起きたのかが、地球化学的モデリングによってシミュレートされた。シミュレーションの結果は、反応の結果として形成された固形物のX線回折と放射能測定によって検証された。
この実験の結果について、Vengosh教授はこう述べている。「われわれの分析で、おもに含ストロンチウム重晶石から成る固形物が新たに形成され、そのなかに硫酸、鉄、バリウム、ストロンチウムなどの何種類かのイオン、それに60%から100%のラジウムが最初の10時間以内に沈殿することがわかった」
この放射性の固形物は混合液から取り除いて正規の有害廃棄物処理施設で安全に処分することができる。また、混合液の塩分濃度も全体として下がり、こうして処理された水が水圧破砕の現場で再利用するのに適していることが判明した。

次のステップは現場での実証

この研究の今後の展開について、Vengosh教授はこう述べている。「次のステップは、これを現場で実証することだ。水圧破砕に適したリサイクル水をつくるのが技術的に可能であることがわれわれの実験で証明されたが、実際の条件下でこれがうまくいくかどうかを確かめるには、やはり現場での実証試験が欠かせない」

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