スイス連邦環境省が2018年4月27日、処理済みの浄水を水質汚染のひどい河川流域に排出している小規模な下水処理場のみに限定して、微量物質除去設備の設置を義務づける水域保全令改正案[1]を公開協議に付した。
対象となる小規模下水処理場(接続住民数1000人以上)は、有機微量物質(低濃度でも河川流域を汚染するおそれのある有機物質)で20%以上汚染された下水を河川流域に排出している施設である。ただし、河川流域が生態系上脆弱な区域に位置し、または飲料水の供給にとって重要である場合で、かつ州が浄水場に浄水を義務付けている場合に限られる。今回、このような小規模下水処理場の1)微量物質除去設備設置期限を現在の2021年から2028年へと延期するとともに、2 )河川排出水中の微量物質汚染水の割合を現在の5%から20%に引き上げる。中規模・大規模な下水処理場に関する規制は従前どおりである。
改正の背景
スイスの河川流域保全令は2016年1月1日から、水生生物と飲料水源の保護を目的として、主要な下水処理場に対し、有機微量物質を除去する措置を講じるよう義務付けている。さらに2021年以降、5%以上有機微量物質に汚染された下水を河川流域に排出する接続人口1000人以上の小規模浄水場にも、微量物質除去設備の設置を義務づける。
スイスのすべての州は、以上の法的要件に従って措置計画を立案している。2016年以降、スイス全体で約130カ所の大・中規模の浄水場に除去設備を設置しなければならない。それにより、スイスの下水の約7割が処理され、河川流域に排出される微量物質が大幅に削減されることになっている。そのための投資費用は約14億スイスフラン(約1550億円)で、連邦政府がその75%を負担する。連邦出資分の財源として、接続住民1人あたり年間9フラン(約1000円)の排水課徴金を2040年まで徴収することとしている。
このようにスイスでは現在、大・中規模の下水処理場の改修が優先されている。小規模下水処理場の場合、費用対効果が悪く改修が棚上げされている。しかし州の計画によると、2021年以降、約55~140カ所の小規模下水処理場に除去設備を設置することになる。この件数は想定よりも大幅に多く、5億フラン(約550億円)もの追加投資が必要になる。また、小規模下水処理場に除去設備を設置しても、水質改善への寄与はごくわずかであることもわかった。そのためスイス政府は今回、小規模下水処理場に微量物質除去設備を設置する義務を緩和することとした。
[1] https://www.bafu.admin.ch/dam/bafu/de/dokumente/wasser/rechtliche-grundlagen/entwurf_aenderungdergewaesserschutzverordnunggschv-2018.pdf.download.pdf/entwurf_aenderungdergewaesserschutzverordnunggschv-2018.pdf