タイのPrayut Chan-o-cha首相は2018年6月4日、干ばつや洪水、他の水問題を解決すると同時に、生態系や森林流域を保護し、河川流域網を一体的に整備(接続)するために、表面水及び地下水の双方を対象とした水資源を体系的に管理する国家水資源戦略計画指針を発表した。同首相は、関連する全てのセクター(農業、商工業等)における水問題の現状への理解と認識を増進するために主催した国家水管理ワークショップにて、同指針を明らかにした。
タイ政府内の水管理関連省庁38機関の運用統合を図ることを目的として開催された国家水管理ワークショップでは、国家水資源庁長官(Secretary-General of National Office of Water Resources)を務めるSomkiat Prajamwong氏が、年間平均降水量が平年比5~10%減が予想されている2018年の雨季における水不足の現状を報告した。タイにおける水田耕作面積は6000万ライ[1]に上るほか、2018年雨季に全てのセクターにて消費される水使用量は887億7100万m3に上ると見られている。さらに、雨季終了後の乾季(2018年/2019年)における農作物の耕作に必要となる水収支量[2]は600億6400万m3になることが見込まれている。タイ政府は、雨季の水管理を統合し、必要となる設備を準備、水管理の状況を綿密に測定する主体省庁として、国家水資源庁がその役割を担うよう指示していた。国家水資源庁長官によると、水資源法(Water Resource Act)草案が策定されており、同法案に盛り込まれた20か年水戦略計画に、20か年国家戦略計画の内容が反映される予定であるという。
Prayut Chan-o-cha首相は、国家水管理ワークショップのオープニングスピーチにて、国連持続開発目標(UN Sustainable Development Goals)の目標6「クリーンな水と公衆衛生」と、国家水資源管理戦略に則り、表面水及び地下水の双方を対象とした国家水資源管理計画指針を以下のとおり示した。
- 法規制の整備:国民立法議会に提出されている水資源法案が現在審議段階にある。年末を目途に同法案が成立、施行される予定である。
- 国家レベルの水資源管理部局の設立:国家水戦略に沿った政策や主要行動計画を策定するために、首相が議長を務める国家水資源委員会(National Water Resource Commission)が設立された。また国家水資源庁が同政策や行動計画を施行、測定し、その結果を運用に反映する。
- 水資源管理戦略計画の策定:タイ国内の水管理運用指針として、2015~2026年水資源管理戦略が内閣により承認された。同戦略計画は以下の6つの戦略から構成される。
戦略I: 水消費量の管理 |
農村部や都市部における水供給、既存の上水道システムの改善、近郊のコミュニティへ水供給を行う学校上水道網の拡張、国内全土における安価な水道水の提供と水質確保を行う |
戦略II: 農工業セクターにおける水セキュリティの強化 |
農業や産業セクター、他のセクターを対象とした水セキュリティや持続可能性の向上に必要となる十分な水収支量の確保、特に東部地域(東部経済コリドー)や他の地域に位置する特別経済地区における経済発展を支援する水灌漑地域の策定と拡大、非灌漑を対象とした水資源の開発、天然水資源の再生などを行う。2019年から2022年までに実施される主要プロジェクトには、BhumibolダムやLam Takhongダムの水収支量の増加、メコン川、ロイ川、チー川、ムン川を対象とした分水プロジェクトが含まれる。これらのプロジェクトはタイにおける安定的な水収支量の確保を狙いとする。 |
戦略III: 洪水・氾濫管理 |
都市部及び主要経済地域における洪水被害の軽減、主要水路の浚渫と浚渫容量の拡大、チャオプラヤ川流域における12か所に及ぶ水利用地域の開発、南部や他の地域における水路の障害撤廃、県排水計画の策定などを行う。2019年から2022年までに実施される主要プロジェクトには、サコンナーコン県でのLam Nam Phung-Nam水門の建設、チャオプラヤ川洪水軽減計画の策定、アユタヤ県におけるBangban-Bang Sai排水路の建設、バンコクでの排水路トンネルの建設などが含まれる。 |
戦略IV: 水質管理 |
安全な水質レベルを確保、201カ所の地域で廃水管理システムを開発、既存の廃水管理システム容量の拡大、チャオプラヤ川、チン川、パスク川、ムン川、チー川流域における廃水量の低減、処理水の再利用、国内全土の河川や水路の再整備などを実施する。 |
戦略V: 森林流域や荒廃地域の再生 |
森林流域の再生、急勾配地域における土壌浸食の防止、森林流域の保全計画の策定を通じた生態系の保護等を行う。 |
戦略VI: 管理・運営 |
水担当部局の設立や水関連法規制の整備、水関連のデータベースや広報の立ち上げと体系化、国家水管理の能力向上、国民参加と認知度の向上、運用性能の評価、関連する技術やイノベーションの開発、水関連の緊急事態時に召集される水力情報データセンタの構築等を行う。 |
Prayut Chan-o-cha首相はまた、水資源管理と運用統合の中心的な役割を担う国家水資源省と共同で、将来訪れる雨季への対策(準備)を首尾よく講ずることを、関連する全てのセクターに対して指示した。また、これらのセクターを代表するワークショップ参加者に対してこれまでの協力に感謝の意を表明するとともに、タイ国家や国民の利益となる水問題の解決や持続可能な水資源管理の促進への政府のコミットメントを約束した。
[1] ライはタイで土地の面積を表す単位。縦横40メートル四方の面積1600m2(0.16ha)を1単位とする。
[2] 水収支量(water budget)は、一定の地域において一定の期間に流量する水の量(降水や地表及び地下水の流入水などを含む)と流出する水の量(蒸発散する水や地表および地下の流出水などを含む)との差し引き量を指す。