米ニューメキシコ州政府は2018年11 月9日、深刻化する干ばつの影響を受けて、同州の主要産業である石油・ガス採掘事業から発生する廃水の再利用に向けた文書草案(ホワイトペーパー)を発表した[1]。米環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)の支援の下で作成された文書は、同事業により生ずる廃水の処理や再利用を促す法規制の簡素化を焦点としている。
ニューメキシコ州では、隣接するテキサス州との州境にパーミアン盆地(油田)が位置し、最近の石油採掘ブームを反映して、石油・ガス生産量が増加している。石油・ガスの採掘時に大量の水が利用されており、採掘から生ずる廃水量も膨大である。同州では2017年時点で採掘事業により発生した廃水量は約380億ガロン(1430億リットル)に上る。同州エネルギー局長Ken McQueen氏は、同文書の中で「(石油・ガス採掘事業から発生する)廃水の取扱いを巡る連邦政府と州政府との権限や法的役割を明確化することで、廃水の再生、再利用を促すとともに、拡大しつつある州内の水資源に対する需要を軽減支援する」と述べている。ニューメキシコ州は2018年時点で米国最大の石油産出州の一つであり、干ばつの影響により水不足が深刻化している。
米国海洋大気庁(NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration)によると、ニューメキシコ州の年間平均降水量は15インチ(380ミリメートル)未満であり、全米で5番目に降水量が少ない。州内を流れるリオ・グランデ川やペコス川の流量が過去数十年間でほぼ最低水準を記録するなど、2018年は干ばつが更に悪化している。リオ・グランデ川は州最大の都市を経由していることから、同都市を流れる際には水道供給のために河川の流量を維持する必要がある。州内の限られた水資源を管理するには水保全が重要な役割を果たしているもののそれだけでは不十分であると、指摘されている。
ニューメキシコ州や他の西部州では、石油・ガス採掘事業から生成される水を廃水として取り扱うことに疑問を呈する一部の関係者も見られる。その懸念の理由として、採掘事業から発生する廃水(生成水)は一般的に、化学物質や金属、その他の溶解固形物が含まれており、その有害性に対する知識が欠如していることが挙げられる。現在、廃水の大部分は地下深部へ注入、破棄処分されており、再利用できない状態にある。それ以外の一部は、石油・ガス採掘に再利用されている(下図)。石油1バレルを採掘するにあたり、4~5バレルの廃水が発生すると見られている。これらの廃水を石油・ガス採掘目的以外に再利用する場合、健康面や環境面での懸念が見られることから、それ以外の用途で廃水を再利用する際にどのような処理過程が必要であるか、EPAや州政府は現在検討している段階にある。
図 随伴水のフロー
(出典:Oil and Natural Gas Produced Water Governance in the State of New Mexico—Draft White Paper)
EPAと州政府担当者は今年7月、廃水の再生・再利用を実現する法的枠組みや許認可規制等を明確化するために、今回の文書策定に着手した。州政府は現在、年末を目途に同草案の最終化に取り組んでいる。
ニューメキシコ州を拠点とする石油・ガス業界団体であるニューメキシコ石油・ガス協会(New Mexico Oil and Gas Association)の広報担当者であるRobert McEntyre氏によると、一部の企業は既に、自社事業の活用に廃水を再利用しているという。同氏は、「ニューメキシコ州が現在廃水の再利用に向けて欠如していることは、石油・ガス採掘以外の用途において廃水を再利用する法的枠組みの整備である。廃水の再利用は新たな機会と成長をもたらし、法規制の整備が進めば大変革(game-changer)をもたらす」と述べた。
[1] Oil and Natural Gas Produced Water Governance in the State of New Mexico—Draft White Paper
https://www.epa.gov/sites/production/files/2018-11/documents/oil_and_natural_gas_produced_water_governance_in_the_state_of_new_mexico_draft_white_paper_508.pdf