2017年7月19日にフィリピン環境天然資源省(DENR)が発表したところによると、今後数年内に発生する可能性がある深刻な水不足の対策として、DENRは各家庭における雨水収集・利用を進めていくことを提案した。この提案は、2017年内に関係機関の参加を得て開催する国内水サミットの準備会合において行われた。
伝統的に行われてきた雨水の収集・有効利用を再び普及へ
計7回開催されたこのサミット準備会合では、サミットの場でドゥテルテ大統領に提示する国家水ロードマップの策定に向けた調整が行われた。DENR副長官で政策計画局担当Corazon Davis氏は7月12日にオルティガス地区のクラウンプラザホテルで開催された最終会合において、間近に迫る国家的な水不足に対し、同省は国家水資源庁(NWRB)を通じて戦略的な解決策を提示すると表明した。また、2017年5月にDENRに着任したCimatu大臣が、水質に関する法規制を厳格に執行し、ラグナ湖、パシグ川、マニラ湾などの国内主要水域の水質を改善することを最優先課題の一つと掲げたことにも言及した。さらにDavis副長官は、政府機関や民間部門の関係者に対し、「フィリピンは水資源が豊富な国として知られていますが、現在、急速な都市化や人口増、ずさんな廃棄物管理、水質汚濁等による水不足に直面しています」と述べた上で、水不足の解決策の一つとして、伝統的な手法である、雨どいを利用した雨水収集を挙げた。「現代のフィリピンの家を、雨どいを使用したものに再設計するだけの価値があるかもしれません。昔の人々は雨樋を利用して雨水を集め、bangaやtapayanと呼ばれる壺に貯蓄し利用していたのです」
雨水収集を義務づける規制の導入を勧告
準備会合において出された勧告には、雨水収集を確実に普及させるため、強力で革新的な規制を導入することも含まれた。導入する規制の例としては、新築建築物向けの建築基準に、雨水収集システムを要件とする新たな規定を導入することや、全ての官庁に、使用済みの水を水洗トイレなどに回せる設備など、水利用効率の良い構造を導入するよう義務付けることなどが挙げられている。NWRBのSevillo David Jr. 長官は、政府の水源確保戦略を見直す必要があるとして、次のように指摘した。「雨水を海に戻すのではなく、有効に活用するための戦略を強化しなければなりません。水を貯留すれば、人々様々な方法で有効に水を使うことが出来るのです」
DENRでは、洪水災害対策および乾季の川下流域での灌漑のため、上流域における小規模ダムの建設を長年にわたって推進している。また、Loren Legarda上院議員やErnesto Pernia社会経済計画庁長官、Emmanuel Pinol農業大臣、フィリピン大学Los Banos氏が率いる水ロードマップ・サミット三者協議会(The Water Roadmap and Summit Tripartite Convenors)は、水危機を回避するための方策として、強力な規制当局とは別に、水に関係する30機関を統率するトップ機関の創設などを要求している。
2014年の貧困指標調査によると、フィリピンでは依然として1500万人が飲用水を含めて危険な水質の水に依存せざるを得ない状況にある。さらに、2016年5月には18の州でエルニーニョ現象による深刻な水不足が発生し、600億ペソ(約129億円)相当の作物が被害を受けたという。