欧州委員会、飲料水指令の改正案を提出―-アクセスと水道水の質や信頼を改善へ

欧州委員会は2018年2月1日、飲料水の質とアクセス、ならびに市民への関連情報の提供を改善すべく、飲料水指令(98/83/EC)を改正する指令案[1]を出した。今後、欧州議会とEU理事会で審議される。欧州委員会のティーマーマンス第一副委員長は、水道水の質を改善し、安全性への信頼を高めることでボトル入り飲料水の消費を17%減らし得るとし、プラスチック廃棄物を減らす助けにもなるとした。また同案は、公共の水飲み場の増設やレストランなどで水道水を無償提供する慣行を推進することも目指しているが、同副委員長は、これらを法で強制する権限は欧州委員会には無いとも述べた。

改正案の要点は次のとおり。

  • 良質な水へのアクセス権を保証し、全欧州市民(特にアクセスが困難な状況に置かれている社会的に取り残された脆弱な層)の安全な飲料水へのアクセスを改善。
  • 最新の科学的知見や世界保健機関(WHO)の勧告を考慮して定期検査物質リストに18の化学物質と病原菌(レジオネラ菌、自然に存在するが有害なウランやミクロシスチン、産業からの新興汚染物質のパーフルオロ化合物、汚染物質の塩素酸塩、ハロ酢酸、ビスフェノールAなど)を追加し、監視を強化。配水網の漏水に関する許容基準も設定。
  • 水質の安全性について新たにリスクベースの評価方式を導入。リスクが比較的高いところを狙って効率的な検査を可能に。新方式はマイクロプラスチックの検査にも適用。
  • 公衆が自分の住む地域の飲料水の質や供給に関する情報に簡単・便利に(ネットを含む)アクセスできるようにし、水道水への信頼を改善。
  • 水の消費、コスト内訳、リッター当たりの価格について供給業者に、より明確な情報提供を求め、ボトル入り飲料水の価格比較を可能にするなどして消費者を支援。

欧州委員会は、こうした新たな措置が飲料水関連の潜在的な健康リスクを今の4%から1%未満に減らすと見積もっている。また、ボトル入り飲料水の消費減による家庭の節約額は欧州全体で年間6億ユーロ以上になるとしている。これは海や海岸を汚すプラスチック廃棄物の首位を占めるボトルの減少にもつながり、その意味で今回の改正は2018年1月16日に発表したEUプラスチック戦略(A European Strategy for Plastics in a Circular Economy)[2]を法的に実践する重要な一歩となる(プラスチック廃棄物の発生源については下図の通りで、飲料水ボトルなどの包装材が約6割を占める)。さらにEU諸国が飲料水管理を改善することで無駄が減り、炭素フットプリントの低減にも資する。


図 EUにおけるプラスチック廃棄物の発生源の内訳
(出典:A European Strategy for Plastics in a Circular Economy)

この改正案について、配水管や蛇口、給湯器などの製造事業者団体European Drinking Water Industrial Allianceは「我々は技術革新への投資を加速したいが飲料水関連器具に関するEU共通の基準の欠如がそれを阻んでいる。EU域内での器具の自由な流通を実現するため、改正案は大幅に強化されるべき」とした。

 

内分泌かく乱物質など水質基準項目の追加

今回の改正案の中でも注目したいのが水質基準項目の追加である。最低限遵守しなければならない水質基準の化学的パラメーターに、内分泌かく乱物質(EDC)とされる3物質を含め、新たな基準値を追加する内容となっている。EDCの3物質には、ビスフェノールABPA)、ノニルフェノール、ベータ・エストラジオールが挙げられている。

飲料水指令についての規制適正化プログラム(REFIT)の評価結果を受けて、欧州委員会は飲料水指令の改正案を提出した。改正案の内容は多岐にわたるが、以下では主に当該指令第4条「一般的な義務」に規定されている、最低限遵守しなければならない水質基準(附属書I、パートAおよびB)に関するものを取り上げる。

「パートA:微生物学的パラメーター(Microbiological parameters)」では、世界保健機関(WHO)の提言に基づき、以下の新規パラメーターを追加。

  • Clostridium Perfringens spores
  • Coliform bacteria
  • Turbidity (パートCから移行)
  • Somatic Coliphages

次に「パートB:化学的パラメーター(Chemical parameters)」では、WHOの提言または予防原則に基づき、新たにパラメーターを追加。

物質名 基準値案 単位
Beta-estradiol (50-28-2) 0.001 μg/l
Bisphenol A 0.01 μg/l
Chlorate 0.25 mg/l
Chlorite 0.25 mg/l
Haloacetic acids (HAAs) 80 μg/l
Microcystin-LR 1.0 μg/l
Nonylphenol 0.3 μg/l
PFAS 0.10 μg/l
PFASs – Total 0.50 μg/l
Uranium 30 μg/l

PFAS(per- and polyfluoroalkyl substances)は、個々のペルフルオロアルキル物質またはポリフルオロアルキル物質(化学式CnF2n+1-Rで現わされる)を指す。WHOは個々の物質について推奨基準値を定めていたが、今回の改正案では、PFASという物質グループ内の個々の物質の基準値(individual)と、合計値(in total)という形で基準値を提案している。ほか、クロムと鉛については、改正された指令が発効した後、10年後に適用が開始される値として、それぞれ25 μg/l、5 μg/lの基準値が提案に盛り込まれている。

EDCに関する基準値について、WHOは何らガイドラインなどで水質基準値を提供してはいない。但し、EDCに対してほ乳類よりも水生生物のほうがEDCに敏感であることを踏まえ、既存または潜在的な環境質基準に近い値を予防原則に基づいたベンチマークとして提示している。

最後に「パートC:指標パラメーター(Indicator parameters)」については、改正案では削除されており、その内容のいくつかは他のパートに移行される見込みである。

[1] http://ec.europa.eu/environment/water/water-drink/pdf/revised_drinking_water_directive.pdf

[2] http://eur-lex.europa.eu/resource.html?uri=cellar:2df5d1d2-fac7-11e7-b8f5-01aa75ed71a1.0001.02/DOC_1&format=PDF

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