ブラジルの水資源庁ANA、気候変動対策の一環として淡水化プロジェクト推進を擁護

2018年4月24-25日に「ラテンアメリカ淡水化及び水の再利用協会(ALADYR)[1]」がブラジルのフォルタレーザ市で開催した淡水化及び水の再利用に関するセミナーで、ブラジルの国家水資源庁ANAの計画局長は、気候変動対策と、環境省が実施している淡水化の重要性に言及した。計画局長によれば、淡水化は乾燥して水資源が乏しい国だけでなく、淡水化技術コストが下がっていることにより、ブラジルのような発展途上国でも代替技術として注目されるようになっている。ANAは淡水化の重要性を認識し、2012年から、淡水化システム実施の他、データバンク構築、社会環境診断を含む淡水化プログラムに1280万レアル投資している。

淡水化と水の再利用に関するセミナーは、淡水化と水の再利用の領域の技術やベストプラクティスに関する経験や知識を共有し、社会的、環境的にサステナブルな運営による技術の開発を奨励することを目的して開催さえた。ブラジルでの開催は2回目で、ブラジル国内外の環境当局や民間企業の専門家が集まった。セミナーで国際淡水化協会IDAの前会長は、ブラジルの水事情は気候変動でサウジアラビヤやイスラエル、カナダなどに近い状態となっており、このような淡水化や水の再使用に関る議論をブラジルで行うことは重要であると述べた。

ブラジルでは環境省の淡水化プログラムで、深井戸から汲み上げた汽水(半塩水)を淡水化し、半乾燥地帯の500以上の村落に飲料水を供給している。またフェルナンド・デ・ノローニャ島では、観光客を除く5000人の定住者の80%に、淡水化された水が供給されている。この淡水化プラントの生産能力は時間あたり48m3で、今年中に72m3への増産が目標とされている。

またセミナーでは、フォルタレーザの都市部での淡水化プロジェクト作成企業の入札が5月に行われる予定となっており、リオグランデ・ド・ノルテ州のマカオ市では、海水の淡水化システム設置のためのスタディが始まり、来年にはプロジェクトが終了する予定になっていることが環境省から紹介された。

EnviXコメント

ブラジルと言えばアマゾン川流域に広がる熱帯雨林が有名だが、そういった地域は水資源が豊富にあるものの、都市部のサンパウロなど一部の地域での水資源量は非常に限られている(下図)。上記の記事のなかで触れられているフォルタレーザとマカオについても、下図のなかで最も赤い色の地域に含まれており、水問題が非常に逼迫しているものと推測される。フォルタレーザが位置するセアラー州では干ばつが続いているために、海水淡水化技術を導入することで2020年までに淡水供給を補完することが発表された[2]。2018年5月末までは技術調査段階であるとのことで、想定されている淡水化プラントは大西洋の海水を処理し、毎秒1m3の淡水を生産する。淡水化に要するコストは約3.31レアルで、通常の上水コスト3レアルと比較しても大差はないという。なお、このフォルタレーザにおける淡水化プラント技術調査には韓国企業とスペイン企業が指名されている。

図 ブラジルにおける地域ごとの一人あたり水資源量の分布
(出典:Global Energy Network Institute, Brazil & The Water Situation)

このように、一部の地域、特に大西洋に面した都市では淡水不足の問題が起きており、その対策としてブラジル政府も法規制の改正や新規公布を検討している。例えば2016年には、海水や地下水の淡水化を奨励する法案PLS 259/2015が議論された[3]。また、淡水化ではないが、国内の商工業における水の再使用を義務付ける法案が2015年には検討され、この法案では「降水量が少ない地域での、商工業向けの新しい建設に対する許可取得条件として、水の再使用を義務付ける」という条文が盛り込まれている[4]。新たに淡水を造ること(海水淡水化)、水をリサイクルすること(再生水)の2点がいまブラジルでは求められており、今後注目したい水ビジネス市場と言える。

[1] ALADYRは、サステナブルな淡水化や水の再利用の為の処理技術を奨励、擁護及び開発する目的で創設され、ブラジルを含むラテンアメリカ諸国に支部を持つ。

[2] ブラジル日本商工会議所、「セアラー州政府は海水淡水化で真水供給補完」(2018年3月21日)

http://jp.camaradojapao.org.br/news/noticias/noticias-infra-estrutura/?materia=18165

[3] EWBJ59号に関連記事あり「ブラジル上院の専門委員会、淡水化を奨励する法案を承認

[4] EWBJ56号に関連記事あり「ブラジル下院、降水量が少ない地域での商工業における水の再使用を義務付ける法案を審議

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