国連大学、急増する淡水化プラントから発生する濃縮水の環境への害を報告

カナダに本拠を置く国連大学の水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)と、オランダのワーヘニンゲン大学、韓国の光州科学技術大学が行った研究[1]によると、現在世界で稼働している1万6000ヶ所以上の淡水化プラントからは、当初の見積もりよりも50%以上多い1億4200万m3の濃縮水(ブライン)が発生しており、環境への影響が懸念されている。

これらの研究機関は、1万6000以上の淡水化プラントのデータを分析し、排出される塩分濃度の高い塩水が当初の見積もりよりもかなり増えていることを発見した。研究員によれば、こうした濃縮水は海水の温度を上げて海中の酸素量を減らし、水中生物に重大な害を与えるなど、環境への影響は非常に懸念される。また海水を吸入するプロセスで、吸入されないように捕獲される水中生物が大量に死んでしまうという害もある。

ワーヘニンゲン大学の教授によれば、世界の淡水化プラントが生産する飲料水1リットルあたり、1.5リットルの濃縮水が排出されている。これは、1年間の排出量で、米国のフロリダ州を水深30.5cmで覆うことができてしまう量である。

問題の大部分は、世界全体の55%の濃縮水を排出する中東のサウジアラビア(22%)、アラブ首長国連邦(20.2%)、クウェート(6.6%)、カタール(5.8%)に集中している。西欧では、世界の5.9%、西欧の64%に相当する、一日560万m3の淡水生産能力があるスペインで問題が大きいが、教授によればスペインの淡水化技術は発達しており、環境へのインパクトは比較的少ない。


図 世界の淡水化プラントの分布
(出典:国連大学[2]

 


図 世界の淡水化プラントの数と淡水化容量の推移
(出典:国連大学[3]

 


図 淡水化プラントから排出される濃縮水の地域別の量(単位:million m3/day)
(出典:The state of desalination and brine production: A global outlook)

 

一方濃縮水は、養殖場や、塩分に耐えられる植物への灌漑、発電で利用でき、マグネシウムやカルシウム、リチウムや、ウランも回収できるという利点もあり、サウジアラビアやアラブ首長国連邦、クウェート、カタールなど塩水を大量に排出する国は特に、環境問題を経済的利点に変える必要があると、教授は述べている。養殖場で魚のバイオマス分を300%増やすのに使われたり、栄養補助食品として利用される藍藻類のスピルリナの養殖に使われるという例もある。

研究員によれば、海水の淡水化は、水不足の地域に住む約20億の住民に恩恵を与えるものであり、淡水化技術を改良する必要がある。淡水化をさらに安価なものとし、発展途上国にも利用を広めることが重要である。

[1] Edward Jones et al., The state of desalination and brine production: A global outlook, Science of The Total Environment, doi:10.3390/w11020208
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969718349167

[2] http://inweh.unu.edu/un-warns-of-rising-levels-of-toxic-brine-as-desalination-plants-meet-growing-water-needs/

[3] http://inweh.unu.edu/un-warns-of-rising-levels-of-toxic-brine-as-desalination-plants-meet-growing-water-needs/

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