インド国家グリーン裁判所、TDSが1リットルあたり500 mg未満の地域でのROによる浄水を禁止――ROの乱用は水の大きな浪費につながるとの申立てに応えての決定

インドの国家グリーン裁判所は2019年5月28日、環境・森林・気候変動省に対し、総溶解性物質(TDS)の量が1リットルあたり500 mg未満の地域では逆浸透(RO)システムで浄水した飲料水の使用を禁止する通達をおこなうよう命じた。また、裁判所の命令文によると、RO浄水器メーカーを対象に処理水の最低回収率を60%として廃棄水(捨て水)を40%未満に抑えるという要求条件も定めるよう、環境・森林・気候変動省に求めている。さらに、最低回収率を段階的に75%にまで引き上げることも要求している。

この裁判所命令は、デリーのNPO、FriendsのSharad Tiwari事務局長の申立てに応えたもので、この申立てでTiwari事務局長は、ROの乱用が水の大きな浪費につながっており、これはすべての人、特に水不足の地域に住む人びとにとって重大な問題だと述べた。裁判所は命令のなかで、インドではきれいな水にアクセスできない人びとが1億6300万人を超えており、これは世界で最も多い数だと述べている。Tiwari事務局長は現地メディアの取材に対し、「これで、RO浄水器のメーカーらは新たな基準に合わせて設計の変更を迫られることになった」と語った。

工業規格局(BIS)が2015年に定めた規格では、RO浄水器の水回収率の下限はわずか20%と定められている。しかも、裁判所の命令文によれば、RO浄水器メーカーの団体は、回収率が20%を超えていないことを認めている。

命令の根拠となった報告書

今回の裁判所命令は、国立環境工学研究所、中央公害規制委員会、およびインド工科大学デリー校が共同で国家グリーン裁判所に提出した報告書にもとづいている。この共同報告書は裁判所の要請によって作成された。

水中のTDSの濃度が1リットルあたり500 mg未満の場合にはRO浄水器が不要であるとの裁判所の判断は、ROがもっぱら溶解性物質の処理のためのものであり、飲料水のBIS規格でもTDSの上限は1リットルあたり500 mgと定められているという共同報告書の記載を根拠にしている。報告書はさらに、「メーカーはRO浄水器に、TDSが1リットルあたり500 mgを超えている場合に使用するものであるとのラベル表示をおこなうべきである」としている。

この報告書は、RO浄水器のメーカーらの宣伝活動を「偽情報キャンペーン」と呼んではげしく非難し、つぎのように述べている。「先進国においては、ROの利用はTDSを多量に含む海水から飲料水を得るプロセス、すなわち淡水化に限られている。ところがインドでは、低TDSの水の処理にこの技術を使うケースがますます増えており、これが新たな標準となっている。ROの利用目的はもともとTDSの除去に『限られている』にもかかわらず、RO浄水器の販促をする側はそれがさまざまな汚染物質を除去できるという謳い文句で売り込んでいる

インドにおけるRO浄水器の大手メーカー2社のうち1社は、「溶解している不純物さえも」除去できることを謳い、他の1社は「RO技術で不純物を除去する」と謳っているがその限界については触れていない。FriendsのTiwari事務局長はこう述べている。「RO浄水器メーカーは一般消費者のあいだに多くの怖れと神話を生み出してきた。この報告書と今回の裁判所命令は、政策立案者ばかりでなく一般市民にも大切なことを教えてくれている。政府は裁判所が命じた通達を一刻も早く出して、水の浪費を防がなければならない」

一般消費者がTDS値を知るために

Tiwari事務局長はさらに、デリー上下水道公社が供給している水道水のTDSは1リットルあたり200 mgを超えていないことを指摘している。したがって、デリーのほとんどの家庭には現実問題としてRO浄水器は必要ないと同事務局長は言う。だが、一般消費者が水道水のTDS値を知るにはどうしたらよいのか? 政府は、地方の水道局や水道公社が利用者に定期的に送る請求書に水源に関する情報とTDS値などの水質情報を記載することを勧告しているが、「これを義務化すべきである」と共同報告書は述べている。

脱ミネラル化の問題

RO技術の利用でもうひとつ問題なのは、水の脱ミネラル化である。「外国でおこなわれたいくつかの研究で脱ミネラル化された水の健康への悪影響が指摘されていることを考えると、ROによって処理された低TDSの水(ROによる処理ではカルシウムやマグネシウムなどの重要なミネラルが失われがち)の使用を認めないのが実際的な対応といえよう」と共同報告書は述べ、RO浄水器メーカーは処理後の水に1リットルあたり150 mgのTDSが確実に残るようにするべきであると主張している。今回の国家グリーン裁判所の命令は、上記のような共同報告書の内容を受け入れた上で、さらにその先を行き、地方の水道当局が脱ミネラル化した水の健康への悪影響について利用者に知らせる広報活動をはじめるべきであるとしている。

用途に合った使用を

共同報告書はまた、インドの大手RO浄水器メーカーらの、ヒ素やフッ化物によって重度に汚染された水もRO技術によって浄化することができるという主張に反駁し、つぎのように述べている。「水がそのように汚染された地域では、汚染物質に応じた適切な技術を用いることでその濃度を下げることができる」

FriendsのTiwari事務局長はこう述べている。「今回の裁判所命令は、ROがあらゆる飲料水問題に解決をもたらすものではないことを明確にしている。ROを使う必要のないところでは、従来の濾過方法のどれかを使って純粋な飲み水を得ることができる」

捨て水の利用について

RO技術の乱用がもたらす問題はほかにもある。RO処理で阻止された水、すなわち捨て水には、大量のミネラルや汚染物質が含まれており、これをどのように再利用すればよいのかについては、まだはっきりとした答えが示されていなかった。今回の裁判所の命令文は共同報告書を引用するかたちでつぎのように記している。「ROの捨て水は、TDSの濃度が1リットルあたり2100 mg未満の場合、洗車、床のモップ掛け、道具類の洗浄、トイレの水洗、および園芸に利用することができる。言われているところの捨て水を使うことによる曝露のリスクは誇張であり、捨て水は利用可能なのである」命令文はさらに、運動場やクリケット場の散水には飲み水ではなくこうした捨て水を使うべきだと述べている。

ただし、命令文にはつぎのような警告も含まれている。「ROの捨て水は土壌や地表水や下水システムに大きな悪影響をおよぼすおそれがあり、共同報告書は、ROの捨て水は排出前に希釈するべきであるとしている」

RO浄水器カートリッジの処分

RO浄水器はカートリッジを交換して使うが、そこで発生する使用済みカートリッジの処分についても国家グリーン裁判所は重要な指示を出している。現状では、RO浄水器のサービス・センターが使用済みカートリッジを回収することはしておらず、利用者が自らそれを処分しなければならない。今回の裁判所命令は、環境・森林・気候変動省がこの点についてRO浄水器メーカーに拡大生産者責任を課す通達をおこなってカートリッジ処分の責任を明確にするべきであるとしている

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