英国マンチェスター大学、酸化グラフェン膜を海水淡水化等への応用に向けて研究進める

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英国マンチェスター大学の物理学・天文学部と中国科学院の共同研究チームは、2014年2月14日、“Precise and Ultrafast Molecular Sieving Through Graphene Oxide Membranes”[1]と題した論文をScience誌で発表した。これは、酸化グラフェンを使用した、浄水や海水淡水化等の用途が期待される新たな膜についての研究である。

薄くて強い、さらに水のみを透過させる酸化グラフェン

グラフェンとは炭素原子がハチの巣格子状に結合した、炭素原子1つ分の厚さの炭素のシートである。酸化グラフェンは通常のグラフェンに類似するが、水酸基などで覆われている。酸化グラフェンのシートは積層が容易で、ごく薄く、しかし機械的に強度の高い膜を形成することができる。同研究チームは、真空ろ過や吹き付け塗装などのシンプルな技法を用いて、酸化グラフェンの層を順に重ね、膜を製造している。この酸化グラフェン膜は、何百万もの酸化グラフェンの断片で構成されており、それぞれの断片の間にはナノサイズの空のチャネル(毛細管)が存在する。

2004年にグラフェンを発見した同大学のAndre Geim教授率いる研究者チームは2012年、酸化グラフェン膜が水を除くすべてのガスおよび蒸気を透過させない特性をもつことを発見した[2]。ヘリウムですら完全に遮断するにも関わらず、酸化グラフェン膜は水分子だけは極めて迅速に透過させる。その理由は、酸化グラフェンのシートがわずか水分子1層分の隙間を開けて重なっていることにあることがわかっていた。

 酸化グラフェン膜は水中に沈めると水分子以外も通すことが明らかに

そして今回同チームは、酸化グラフェン膜を水に沈めると、膜が水蒸気や周囲の湿度に曝されたときとは対照的に、わずかに膨らみ、水以外にも9オングストローム以下の小さいイオンや分子を通すようになることを発見した。例えば、水和した糖類分子の直径は10オングストロームであり透過しない。

 イオンを高速で吸い取るかのような「イオン・スポンジ現象」

またこの水中での膜の挙動について研究者らが注目しているのが、直径9オングストローム未満の分子が、簡素な拡散プロセスから予想される速度の1000倍もの速さで酸化グラフェン膜を通過するという現象である。これについてRahul Nair氏は、「我々はこの現象は、酸化グラフェン膜のもうひとつの卓越した特性がもたらすものと考えています。これを我々は『イオン・スポンジ現象(ion sponging)』と呼んでいます。個々の酸化グラフェンの断片の間にある毛細管はまるでパワフルな小型掃除機のように、小さなイオンを吸い取ります」と述べた。

酸化グラフェンのシートは、乾いているときはそれぞれの層の間に6~7オングストロームの隙間があるが、膜を水に沈めるとシートの間に2層分の水分子が入り込み、この間隔が11~12オングストロームに広がる。「この極めて狭いグラフェンの毛細管の間に形成された水の層は非常に自由に動くことができ、これが毛細管より径の小さいイオンと分子の通過を助ける役割を果たすのです」とRahul Nair氏は説明する。

 水のろ過膜としての実用化には、毛細管のサイズが鍵に

チームによれば、この酸化グラフェン膜の毛細管のサイズを9オングストローム未満にすることで、浄水や海水淡水化のろ過膜として使用することが出来るという。そして現在、チームは酸化グラフェンのメッシュサイズをコントロールする方法を模索し、海水中の最も小さい塩化物イオンを遮断できる6オングストローム以下のメッシュサイズを目指して研究に取り組んでいる。「この酸化グラフェン膜を水に沈めても膨らまないように制御できれば、その目標を達成できる可能性があります」とNair氏は語る。またチームのIrina Grigorieva氏は、最終的な目標は、携帯型の機械式ポンプを使用して海水から飲料水を作ることができる、炭素ベースのろ過装置を開発することだと語った。

[1]R. K. Joshi, P. Carbone, F. C. Wang, V. G. Kravets, Y. Su, I. V. Grigorieva, H. A. Wu, A. K. Geim, R. R. Nair, 2014: Precise and Ultrafast Molecular Sieving Through Graphene Oxide Membranes, Science, doi: 10.1126/science.1245711
http://www.sciencemag.org/content/343/6172/752.abstract?sid=fc46dbd3-fe81-4475-a5c4-42090b524e98#corresp-1

[2]R. R. Nair, H. A. Wu, P. N. Jayaram, I. V. Grigorieva, A. K. Geim, 2012: Unimpeded Permeation of Water Through Helium-Leak–Tight Graphene-Based Membranes, Science, doi:10.1126/science.1211694
http://www.sciencemag.org/content/335/6067/442

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