NRDC、飲料水のPFAS化学物質の汚染問題解決に向けて、ミシガン州政府に提言

米環境保護団体Natural Resources Defense Council(NRDC)は2019年4月1日、ミシガン州環境室局(MDEQ:Michigan Department of Environmental Quality)に対して包括的な科学研究報告書(Scientific and Policy Assessment for Addressing Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) in Drinking Water)[1]を提出し、5種類に及ぶPFAS化学物質を対象とした厳格な飲料水基準“MCLGMaximum Contaminant Level Goalを採用することを求めた。さらに、汚染された飲料水からPFASを完全に除去するため、現在利用可能な排水処理技術等に基づき、排水技術基準“MCLMaximum Contaminant Levelを作成することも要請した。

NRDCは今回、PFAS化学物質が人体の健康に与える脅威を実証する毒物的及び疫学的な証拠を検証した包括的な科学的分析を実施した。これらの化学物質は、癌、ホルモン障害、肝臓・腎臓の損傷、発達・生殖への悪影響など、数多くの深刻な健康被害を引き起こす関連性があるとされている。このように健康への影響が認識されているものの、法的拘束力を持つ連邦レベルの飲料水基準が制定されておらず、PFOAやPFOSを対象とした健康勧告値やガイドラインの設定に留まる。PFOAやPFOS以外のPFAS化学物質は、これらの二種類の化学物質と比べて確立したデータが存在しないものの、人体の健康や環境へもたらす脅威がPFOAやPFOSと同等レベルであるとの科学的証拠が集まりつつある。またPFAS化学物質は、PFOAとPFOSと同様に、環境中の移動性が高く、人体や環境中の蓄積性・残留性が高いこともあり、同化学物質の継続的な生成や放出に対する懸念が、科学者や健康専門家の間で世界的に広がりを見せている。

また今回の報告書では、飲料水のPFAS化学物質の汚染が問題視されているミシガン州における課題とその解決策が主な焦点として取り上げられた。ミシガン州では、州内に位置する100カ所以上の上水道網からPFAS化学物質が検出されている。2019年2月26日に実施したサンプリングテストでは、上水道網から抽出した162カ所のサンプルにて、少なくとも1種類のPFAS化学物質が含有されていることが明らかとなった。但し、同サンプリングテストは、小規模な私営水道システムや井戸水(学校へ供給されている飲料水は除く)などは対象外であるため、ミシガン州全体におけるPFAS化学物質による飲料水の汚染は未だ不透明な状況にある。

図 ミシガン州でのPFASの汚染状況(緑色の点は、MDEQによる調査で判明した汚染箇所)
(出典:Scientific and Policy Assessment for Addressing Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS) in Drinking Water)

NRDCにおける今回の調査分析の対象となるPFAS化学物質は、PFOA及びPFOSに加えて、PNFA、PFHxS、GenXといった、合計5種類である。前者4種類は、米保健福祉省有害物質特定対策庁(Agency for Toxic Substances and Disease Registry, Department of Health and Human Services)が最小リスクレベルを設定している。また、GenXは、PFOAの代替物質として活用されており、米環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)が最近その有害性を検証した。NRDCの分析結果によると、これらの化学物質を対象とした既存の基準や健康勧告値は、人体の健康を保護する上で不十分であると結論付けた。

このようなミシガン州におけるPFAS化学物質の飲料水汚染を解決する手法として、以下の事項をNRDCは掲げている。

MLCG及びMCL基準値の策定 NRCDはミシガン州環境規制当局であるミシガン環境室局(MDEQ)に対して、上記5種類に上るPFAS化学物質を対象とした最大汚染レベル目標(MCLG)、及び、最大汚染レベル(MCL)を設定することを要請した。MCLGは、法的拘束力がなく、人体の健康に害を及ぼさない範囲で設定された勧告値である。NRDCは、5種類のPFAS化学物質に関してMCLGはゼロとした。これに対してMCLは、法的拘束力がある基準値であり、現在利用可能な排水処理技術等に基づき達成可能な基準として、MCLGに近い数値が設定された。
飲料水における汚染物質の浄化と低所得者による水道料金を支払い支援する財源の確保 飲料水における汚染物質の浄化と低所得者による水道料金の支払いを支援する財源の確保を目的とした法整備を、Gretchen Whitmer州知事と協力して進めることを、NRDCはミシガン州議会へ要請した。同州法案の成立を通じて、飲料水のPFAS化学物質や鉛汚染などの飲料水に関する問題解決に取り組む地方自治体等に対して財政支援する。また、飲料水を汚染した事業者に対して、汚染物質の浄化コストを負担させるほか、それにより引き起こされた被害の是正措置の実施を義務付けることを提言した。

[1] 報告書の原文は以下よりダウンロード可能。
https://www.nrdc.org/sites/default/files/assessment-for-addressing-pfas-chemicals-in-michigan-drinking-water.pdf

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