特集(2012年11月号) – 世界中のインフラ市場で放置された施設の損傷や資金調達の難しさが露呈

本稿は、水ビジネス・ジャーナル第44号(2012年11月発行)の特集記事「世界中のインフラ市場の危機と今後の市場性」の一記事です。


2011年9月22日に米国コンサルティング会社Boston Globeはその調査報告書の中で、マサチューセッツ州運輸局(DOT)の第三者諮問委員会が同州の交通輸送インフラを保守する能力が極めて不足していると警告を発したと伝えている。さらに同報告書は、同州の老朽化したハイウェイ、橋梁そして交通輸送網を健全な状態に保ってゆくためには、その修理や建て直しに150億ドル(約1兆2000億円)以上の資金が必要だとも指摘している。

この報告書は2007年の調査報告書「持続可能でないシステム(An Unsustainable System)」に続くもので、同州運輸局の高官も事態は今なお持続可能なものではないことを認めている。同州の交通輸送網の運営管理は赤字の状態であり、マサチューセッツ運輸信用基金の1ドル当たり74セント(自動車関連料金とガソリン税及び消費税を合わせた基金)が、過去のプロジェクトに対する返済資金に使われているという。メンテナンスが行き届いていないままの残された部分は膨大なものであり、連邦政府の援助資金が削減されることが無いとしても、インフラの保守管理費用を確保するためには、政治的には好ましいものではないが、各種料金の引上げや増税などを行なってゆく必要がある。

この種の問題は、何もマサチューセッツ州に特有のものではなく、また、全米に広がるインフラ資金不足の問題は交通輸送分野に限ったものでもない。環境及びインフラエンジニアリングに従事している企業の役員等は十分認識していることであるが、米国の上下水道インフラは比較的に悲惨な窮境にあるのである。

電力、交通、上下水道、通信、港湾・流通、そして教育インフラへの政府支出を増やすべきと主張する人々は、米国がインフラに支払っている現在の方法を抜本的に改善することは米国の競争力を保持する上でも喫緊の課題である。

中国や韓国など他の国々は、これらインフラ分野への投資を継続して増大しており、その結果、彼らの経済的影響力はグローバルで拡大してきている。例えば、中東の電力市場で韓国企業が大きなプレゼンスを有していることは、直接、韓国国内でのインフラ投資にも繋がっていると、ほとんどのアナリストが指摘している。

CG/LA Infrastructure LLC社の世界インフラ市場調査の結果から:

最近、調査会社CG/LA Infrastructure LLC社が米国の官民両セクターの役員を対象に行なった調査結果によれば、米国内のインフラの今後の開発がぞっとするような危機的な情況にあるという。CG/LA社は、この調査結果や米国のインフラ能力を他の国のそれと比較するための「国インフラ能力(CIC: Country Infrastructure Capacity)」評価ツールを利用して米国インフラを評価したところ、1~10の等級の中で4.38という評価を下したが、7以下が欠陥のある等級とされているので、米国インフラが如何に低い水準にあるかということが判明した。

この調査及び評価結果についてCG/LAのNorman Anderson社長兼CEOは、「我々は世界中でこのインフラ能力の調査を行なってきたが、米国に関する評価の結果は、世界の中で最低水準に近いもので、インフラプロジェクトの開発能力に関して言えばペルーと同程度の水準であり、ブラジルやインド、中国、そして乏しいインフラ資金や専門知識を求めて競合している他の国の能力よりも遥かに劣っている」と語った。

発展途上国では本物のビーフと云ってもその品質は米国の品質と比べれば低いだろう。しかし、こうしたインフラに関するスコアは便利さや公衆衛生に関する現在のレベルに基づいたものではなく、今後のプロジェクトや投資を進め得る能力に基づいて評価されている。

上記のCIC評価ツールは、広範な項目について0から10までの等級で得点を付けている。

【米国インフラ能力にCIC評価の内訳】

  • 全体的ビジョン(今後の市場に対する基本的展望や方針の存在):3.50
  • パブリックセクターの技術的能力:4.95
  • パブリックセクターの戦略的能力:4.45
  • 大規模プロジェクト(大きなプロジェクトの存在):6.64
  • リーダーシップ(推進しようとするリーダーの存在):4.18
  • 長期間プロジェクトのパフォーマンス(運営管理能力):6.43
  • エンジニアリング/調達/建設(EPC)企業の存在:7.62
  • 地方に公平に存在する能力:6.05

米国の合計点=43.8 (56点以下は落第点:各項目7点以下は落第点)
ブラジル:50.8
インド:51.3

このCG/LAの評価結果によれば、全体的ビジョンとリーダーシップの存在に関する米国の得点は調査対象国中で最低レベルであり、ただひとつ合格点をとったのはEPC企業の存在である。これについてCG/LA社は、米国では、施設の所有者や運転者が発注さえすれば、民間セクターが技術的能力もプロジェクトを遂行する能力も持っていると指摘している。

これらの点を考察するに、米国のインフラ市場のおかれた状況は、日本のそれとかなり類似していると思われる。唯一異なるのは、日本ではパブリックセクターの保守性が極めて強く、民間セクターもそこに安住し、自らが現状から脱皮して「革新に向けた“内なる”市場開発」に全く踏み出せないことであろう(EnviX)。

CG/LA社はさらに、米国のインフラ市場は今回の調査で回答した組織の93%が2012年の景気状況は2011年と同様かもしくは僅かに好転するだろうと見ているが、彼らは2011年そのものをリーマンショックで激震した2009年の悲惨な状況と大きく変わらないと捉えていることだ、とも指摘している。

EBIのインフラ企業トップへの調査の結果から:

サンディエゴ市に本拠を置く環境ビジネスコンサルタントのEBI社は、2011年秋に世界のインフラ市場に係わる組織トップへのコンタクトを通して調査した結果、成長性のある市場として、電力・エネルギー港湾及び交通運輸の3つを挙げている。そして拡大しているかに見える通信市場に関しては成長性があるとは見ていないが、その理由として、通信市場が停滞した情況にあること、また、設計・エンジニアリング分野のトップ企業のほとんどが通信市場を成長性のある業界とは見ていないこと、などを挙げている。

EBIの最初のインフラ企業調査の主な内容】

環境関連企業の20%以下しか通信分野で事業展開をしてきていない。その一方で、環境企業の75%以上が水市場とエネルギー市場で事業展開してきている。

下記の表2には、コンサルティング&エンジニアリング(C&E)企業を中心とした70数社による回答を基にした主なインフラ市場における事業展開の現状と成長の展望とが示されている。それに基づけば次のことが言える。

  1. エネルギーインフラ市場は、回答者の約90%がその成長性をGood、Strong、あるいはVery Strongと評価しており、「最も健全な市場」と見られている。
    その理由としては、世界でのエネルギー需要が高く、特に新興国では高い。さらに製造分野が拡大し、中間層の人口も増えると共に、生活の質的向上が進んでいることなどが挙げられる。
  2. 発電の形態は地域によって様々に異なる。石炭火力は依然、中国、インド、東南アジアそして南アフリカでは大きな需要があり開発が進む。米国やカナダでは、ガスや再生可能エネルギーの開発に一層向かうため石炭火力の開発はほとんどないだろう。ただ、米国の場合、電力会社が将来の新規発電プラントを建設しようとする際にどの発電形態を選択すべきか悩ませられる要因がある。それは、現在、連邦議会で大気浄化法規則の強化を目指した動きが活発化していることであり、実際に改正が行なわれる可能性があることである。例えば、新たな州際大気汚染規則(CSAPR)や最大達成可能抑制技術(MACT)の導入を電力会社に迫る電力MACT規則の導入によっては旧式の石炭火力の廃止とそれに代わる新規プラント建設が進む。
  3. 福島原子力発電所の事故で原子力については、一部の国では開発中のものが停止されたり、ドイツを含む一部の国に至っては原子力からの完全撤退を計画するなど、厳しい情況にある。しかし、中国や米国ではすでに新規の原子力発電プラントの建設許可が発給されており、建設が進んでいる。報告によれば、新たな技術の開発が行なわれることで、開発関係企業は原子力市場の拡大に展望を持っている。
  4. シェールガス開発を含め、新たな探査及び生産(E&P)技術の開発導入が進んできたことで、天然ガス利用の発電方式が多くの国で普及している。但し、米国のC&E企業のトップは、E&Pの技術開発は勢い進んでいるが米国の発電プラント開発の現状はそれが顕在化するまでには多くの時間がかかる傾向にあり緩慢だと指摘している。
  5. 再生可能エネルギー開発は景気後退の影響を多少受けているものの世界全体で見れば着実に進んでいる。米国でも様々な取組みが提案されているが、連邦政府の資金助成プログラムや発電税額控除(PTC:Production Tax Credit)に関する方針の不確実性がその勢いを鈍らせている。このPTCは、風力を中心とした再生可能エネルギーの導入支援策として大きな役割を果たすもので、年間発電電力量に所定の控除額(風力の場合は2.1セント/kWh)を乗じた金額を法人税から控除するものです。もう一つの重要な支援策として投資税額控除(ITC:Investment Tax Credit)があり、投資額に所定の割合(太陽光は30%)を乗じた金額を法人税から控除するものです。
  6. それでもここ数年間に米国やその他の国々でも膨大な数の再生可能エネルギー施設が建設され、今やそれらを送電網に繋ぐ必要に迫られている。実際、この送電・配電インフラの市場は爆発的に拡大している。

米国の港湾施設は、その環境保護対策に責任をもって積極的に取組んでいる。そうした対策への資金調達には制限があり、あくまでもテナント企業と自発的な取り組みの中で進めていかなければならない事情があるが。大きな港湾では、港湾作業などが地域社会に環境面で悪影響を与えないよう配慮し、「クリーントラックの導入」や「燃料転換プログラムの導入」などによってディーゼルエンジンからの排ガス抑制に努めている。
現に、Long beachとLos Angelesの港は、年間100万台を越える鉄道車両の積荷を扱うPacific Harbor Line鉄道の23台の機関車のうち16台を最近新型に代えている。それによって、6年前と比べた場合、パティキュレート(PM)を85%、NOxを35%削減できたとしている。米国の交通輸送インフラ市場はともかく大きい。アメリカ輸送危機連合(American Crisis in Transportation Coalition; ワシントンDC)の共同創設者の一人John Boffaは、米国の輸送インフラが必要としている資金のうち、現在、年間で2250億ドル(約18兆円)が不足しており、米国の人口が2050年までにさらに1億人増えることを考慮すればそれだけの投資が必要と指摘している。
その他の多くの港湾でも停泊中の船舶に陸上電源を供給する「Cold ironing」が実践されており、そのほかにもブラウンフィールド(汚染された廃港湾施設)の再開発、ストームウォーター(越流水)の衛生管理、そして動植物生息地(アザラシなど)の自然回復などの取り組みも進められている。
このアメリカ輸送危機連合は、米議会の国家地表輸送政策と歳入研究委員会に勧告を行なうことを目的に創設されたものである。
Boffaはそうした資金の必要性を次のように説明している。

  1. (将来的な人口増や都市化の進展を考えれば)今後、大量の大型輸送車両がハイウェーや鉄道および港湾に溢れ、特に鉄道での輸送量は急増するだろう。したがって、そうした資金調達が現在でも必要だし、今後一層求められる。
  2. 経済情勢が思わしくない中で歓迎されないだろうが、資金獲得の方途として、ガソリン税の40%引き上げや、道路の通行料金徴収の広範囲での適用などが必要である。

大手輸送会社HNTB Companies(カンサスシティー)の役員であるDavid Wenzelなど輸送会社のトップ陣は、現行の連邦地表輸送法である「安全で信頼性があり且つ柔軟で効率的な輸送公正法(SAFETEA-LU)」が議会で再承認されなかったことは資金調達の面で大きな痛手であると語っている。また、このSAFETEA-LUの再授権は輸送セクターの資金面で大きな支えとなるものであるが、次の大統領選挙までは承認されるとは期待できないとも語っている。

米国の輸送インフラの健全化にとってこの輸送公正法の再授権は必要である。一方他の国々では、特に第3世界の国々でも、政府の支援やそれを具体化する法律が最近導入されており、うまくいっている。そのことは国内市場で効果があるだけではなく、海外の市場でもそれらの国のインフラ企業の躍進をもたらすものとなっている。

米国が21世紀に主導的な役割を果たそうとするなら、先ずは国内のインフラ市場の建て直しに一層真剣に取組むべきである。

【表1】
201211011_1

【表2】
201211011_2

【表3】
201211011_3

【表4】
Most Popular Markets and Growth Prospects in Infrastructure for Environmental Companies
201211011_4
201211011_5
201211011_6

タグ「, , , 」の記事:

2020年6月14日
ロシアで2020年7月1日から新しい排水組成管理規則が施行される
2020年5月31日
メキシコ環境省、国の水資源利用料支払いのための使用水量測定一般規則を公布
2020年5月13日
スリランカ政府、環境水質基準を定める規則を公布
2020年5月9日
米カリフォルニア州政府、飲料水中の六価クロムの新汚染基準策定に向けたワークショップを開催
2020年4月11日
ドイツ環境省、第11次排水令改正令案を公開協議――BATへの包括的適応を推進