特集(2012年11月号) – 【事例研究2】David Evans and Associates, Inc.の市場戦略

本稿は、水ビジネス・ジャーナル第44号(2012年11月発行)の特集記事「世界中のインフラ市場の危機と今後の市場性」の一記事です。


輸送、その他のインフラ、建設全般と土地開発事業を主たるビジネスとする他の企業と同様、オレゴン州ポートランドに拠点を置くDavid Evans and Associates, Inc.(DEA)はこれらの事業をバランスよく展開し躍進している。長引く景気低迷でこれらのインフラ市場ではビジネスチャンスが突出することもなく市場の成長性も全体として横ばいであり、少なくとも輸送事業分野は現状維持という状況の中で、同社の輸送分野は売上のトップを占めている。

同社は、ここ数年、秀でたビジネス・マネジメントの技量を拡大し、そのすばらしい名声とともに引き続き優れた業績を成し遂げている。

同社のCEOであるAl Barkouli氏は最近、「2011年も優れた経営管理によって一層の利益をあげることができた。このような不景気の中で成長することは大変難しいことだ。そこで、効率化を図れる部分やチャンスがあれば、その部分で効率化を成し遂げることで利益はさらに拡大する」と述べている。

DEAは、いくつかの産業界の優良企業番付リストで上位にランクされており、「Best Places to Work Category」賞で過去に表彰されている。2008年にはFortune 誌の「List of Best Companies to Work For」で73位にランク付けされている。CE News誌は「土木建設業での最優良の大企業」の中でNo.1にランク付けし、全体の業種の中でも9位にランク付けした。

またDEAは、建設業界の企業番付を毎年発表している米国の情報会社Engineering News-Records (ENR)の年次リストでも常時上位にランクされ、2011年のTop 500設計会社リストでは87番目にランク付けされ、「pure designers」部門では57位にランク付けされている。

上記のENRの報告によれば、DEAの年商は1億2130万ドル(約100億円)であり、その構成内容は、輸送部門が全体の72%、建設全般が12%、電力部門6%、水供給部門3%、そして下水/廃棄物部門が3%、となっている。

こうしたDEA社の好業績を支えている経営戦略あるいは市場戦略の一端についてBarkouli CEOは次の点を挙げている。

1.他社との戦略的請負契約:

DFAは下請け企業を適宜、採用しているがそれには様々な理由がある。

  • ひとつは、我々が持っていない能力を有する企業を手を組む必要がある場合で、例えば、地質工学分野の業務は独自でできないので、他社と契約しているし、騒音分析といった特殊な環境専門家とも下請け契約をしている。
  • もうひとつはより戦略的な下請け契約というかパートナーシップのケースである。例えば、DEAはオレゴン州とワシントン州の地域で主契約者としてプロジェクトを受注しているが、同じワシントン州を拠点とするParametrix社とパートナーを組んでいる。Parametrix社は、エンジニアリング、都市計画および環境科学などの分野を専門とする企業でDEA社のプロジェクトのために環境関連文書の作成に携わっている。DEA社も同じ環境分野で業務を遂行する技能を持ち合わせてはいるが、より環境分野に特化した同業他社と組むメリットを感じている。

2. 輸送事業とその特徴:

DEA社は、その主力の輸送事業を、次の4つに分けている。

  1. 道路とハイウェイ分野:連邦政府、州政府及び地方政府からの業務で主にオレゴン州内に集中している。ワシントン州でのハイウェイ関連業務も動き出し、2011年も順調であった。
  2. 橋梁と構造物分野:同じ顧客からの繰り返しの依頼が多い。単発のものもあるが、上記の道路・ハイウェイプロジェクトの関連業務として受注する場合もある。特に、2011年3月の日本の東北での大地震以降、そうした大規模な地震にも耐えられる耐震性の高い橋梁に取り替える動きもあり、その恩恵に浴している。
  3. 公共旅客輸送(transit)と各種鉄道:公共旅客機関や鉄道会社から受注している。現在、Portland-to-Milwaukie(オレゴン州内)鉄道プロジェクトを受注し、2012年には閑静の予定であるという。
  4. 航空分野:この分野については2、3年前に放棄した。その理由をBarkouli氏は、「我々は航空分野では小さな企業であり、現在持っている技量と他者と競合するためにこれから備えなければならないものとのギャップを埋め合わせるにはコスト負担などが大きく対処できなかった。そこで、航空ビジネスから撤退したのだ」

3. エネルギー分野で強み:

DEA社のエネルギー事業には一定の強みがある。エネルギー事業は2部門に分かれ、一つは電力会社からの発電施設に関するものであり、もうひとつは風力とソーラーの2つの分野での再生可能エネルギー開発である。

4. 水関連分野での安定性と広がり:

DEA社の水関連事業は安定したものとなっており、現状は全体から見て大きな部分ではないが、事業そのものは大変うまくいっている、とBarkouli氏は語っている。現在の主な業務内容は、水関連の規制当局からの許認可関連業務の受注が多く、一部にはストームウォーターのエンジニアリング工事も含まれている。

クライアントの多くは地方自治体や水道事業者であるが、水関連許認可取得に関する問題の解決を求めるエネルギー企業からの受注もある。

5. 「設計‐建設(design-build)」へのシフト:

政府系クライアントにとって、発注する際、コストは常に重要なファクターであり、特に税収入が減っているため厳しくなっている。Barkouli氏は、「こうした傾向は特に交通輸送分野で見られる。そこで他のエンジニアリング会社のほとんどもそうであるが、設計と建設を個別に受注するのではなく“設計‐建設”を一貫して受注する方向に業界は動いている。この“設計‐建設”のメリットはコスト削減予測可能性(一貫して受注あるいは発注するっことにより、受注者にとって次の建設作業がやりやすく、発注者にとって建設内容を事前に明確に予測できる)にある」と語っている。

また、同氏は「設計‐建設」方式のメリットと特徴を次のように指摘している。

  1.  「設計‐建設」の一括受注能力があれば、現在の市場環境にあって契約を獲得する上で強みを発揮できる。入札業者の中で落札される企業は、Best Value とBest Priceを提供できる会社ということである。
  2. もしこうした一括業務に対応できる質の高い3つの企業があるとすれば、それらの中から全体的に最高の価値(best total value)を提供できる会社が選択されることになる。
  3. このことは財源が厳しい自治体にとって、より重要なものとなっている。

【DEA社の3年戦略計画】

Barkouli氏は同社として現在、向こう3年間の戦略的計画を作成中であることを明らかにした。その概要は次の通り。

  • この計画は、利益を伴った成長に向けた組織再編の基本方針をまとめるもので、この戦略は、(1)現在我々が実際に行なっていること、(2)我々が現に成功裡に行なっていること、そして(3)これらを他の場所に拡大して実施すること、の3点に重点を置いている。
  • DEA社は現在、西海岸、アイダホ州、アリゾナ州、コロラド州及びニューヨーク州に17の拠点を置き約650名の従業員を擁しているが、今後、西部地域(West)でのプレゼンスをさらに強化してゆく。そこで特に標的にしている分野は:
    南カリフォルニア、プジョー湾(Puget Sound)地域、及びデンバーにおける交通輸送マーケットでの業務拡大
    エネルギーと水市場の成長に伴う業務拡大
    土地開発の再ブーム到来に準備すること

そのほかにBarkouli氏は今後の課題について次のように語っている。

  • 自治体などのクライアントは現在資金調達で困難に直面しているが、これとは別にDEA社自体が市場で直面している最も大きな課題は、「競争力」である。大きな企業は一層大きくなる、だから、比較的に小さなニッチ企業と何でもできる巨大企業との間にあって我々が我々自身をどのように位置づけるかが課題なのだ。我々は多くの企業が買収して成長に向かっている姿を見ている。中堅企業としてDEA社はそうした状況の中でどの方向に向かってゆくのかを形にしてゆく必要がある。
  • 買収されるということも考え方のひとつだろう。多いな企業はさらに大きくなるという事実も検討すべき課題だ。海外の企業が米国市場に参入もしている。そうした中でも、DEA社の戦略の一つは、「従業員によって所有される会社であり続けること」だ
  • 良い企業となりうる企業にとっての場所、存続しうるグレートな場所があると考える。
  • この種の連帯(買収・合併)のすべてを見るにつけ、我々は「スウィートスポット」に存在したいと思う。なぜなら、多くの企業が規模を縮小したり買収されてゆくだろうからである。そうして、その先に高品質で中堅の企業にとって新たなビジネスチャンスが生まれるものと思う。

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