特集(2012年11月号) – 【事例研究1】Michael Baker社の市場戦略

本稿は、水ビジネス・ジャーナル第44号(2012年11月発行)の特集記事「世界中のインフラ市場の危機と今後の市場性」の一記事です。


米国のインフラ市場が設備投資資金が足りない中で、企業が生き残ってゆくには決まったやり方があるわけではない。限られた資金がどこに投入されるか、もし投入されるなら我先にとその機会を獲得しなければならない。

そうした厳しい米国インフラ市場で顧客との良好な関係を保ち、顧客から繰り返し受注を受けている企業がある。それは年商5億ドル(約400億円)の中堅エンジニアリング会社であるMichael Baker Corp.(Pittsburgh,ペンシルバニア)であり、厳しい経済環境の中でも顧客から継続して受注を続ける同社の経営方式の中に重要な経営戦略の鍵が存在していると思われる。

下記は同社のCOOであるJohn Kurgan氏が語った同社の経営戦略あるいは方式である。

1. 高品質のサービス

Michael Baker社は創立後70年以上を経過し、インフラ市場が景気の良くないときですら仕事を繰返して発注してくれる長期間に亘って取引のある多くの顧客を抱えている。そうした顧客のほとんどが我が社を継続して使ってくれる理由は、我々が提供したサービスの高い品質にある。

2. 中小規模のプロジェクトを大事に

Michael Baker社のようなエンジニアリング会社は大きくて新しいプロジェクトを取りたいと考えるが、今や米国の国内市場ではそうした大規模の新規事業はほとんどないしあっても当社には無縁に近い。そんな中でもいくつか存在する大きなプロジェクトとしては、民間からの資金提供を伴った官民パートナーシップ(PPP)によるものが提案されることがある。しかし、こうしたPPPプロジェクトの数も極めて少ないし、それゆえ他社と激しく競合しなければならない。

3. バランスの取れたサービス構成

当社の2010年の売上は約5億ドルで事業分野は2つに分けられる。一つは交通運送部門で売上全体の55%を占め、もうひとつは連邦政府関連の業務で全体の45%を占める。連邦政府の業務の内容は多岐に亘っており次の分野を含む。

  1. 石油・ガス、及び石炭(同州で産出される)
  2. 通信
  3. 上下水道

連邦政府の関連と云っても実際にはこれらの分野の民間企業や軍事関連部門そして他の連邦政府機関にサービスを提供している。具体的なサービスとしては次のものがある。

  1. 土木建築サービス
  2. 環境工学サービス
  3. 地質工学サービス

 4. 主軸の交通輸送分野でフルサービス

主軸の交通輸送分野では当社は、地表交通分野を対象にフルサービスを提供しており、次のものを含む。

  1. 計画策定
  2. 環境対応
  3. 設計
  4. エンジニアリング
  5. 検査(橋梁)
  6. 建設管理

5. 航空分野や鉄道輸送分野でも多様なサービスを提供

当社は航空分野にも地表交通分野と同様のフルサービスを提供している。例えば、建築設計、機械工学、電気工事、給排水工事などである。ハブ空港や中規模の空港にもサービスを提供しているが民間の一般的な航空施設にも提供している。大空港は施設利用料を徴収してその資金を設備投資に充てることができるが、資金の無い中規模空港や一般の空港施設は資金がなくて主に連邦政府の資金に頼っている。

さらに当社は、鉄道・陸上輸送にもサービスを提供しており、信号システムや通信システムを提供している。但し、この分野は比較的に新しい分野で2~3年で成長した分野である。

6. 同州の鉄道工事の経験を踏まえ全米展開へ

同州北東部にあるAMTRAKステーションの改造工事と同州鉄道網の改良工事にも携わっている。AMTRAK社に対しては国内の様々な場所で建設管理サービスを提供してきた。これは長い間待ち焦がれていたサービスであり、今後、AMTRAKに提供しているサービスをさらに向上させることでこの鉄道関連サービスを全国展開できると考えている。これは我が社の将来にとって明るい材料となる。厳しい競合市場であろうが、可能性を秘めている。

7. 橋梁とハイウェイ分野も将来を見据えて着実に拡大へ

橋梁とハイウェー分野でも資金事情は同様に厳しいが、顧客とは現有の資金でどこまで対応すべきか、その緊急性の程度に応じて話合って決めている。当面、すぐに開通させる必要があれば応急処置をし、最終的には改めて全体を改築する必要があるケースも生じる。ただ、実際のところ、当初の設計時点での寿命期間を過ぎた橋であってもすぐに建替えなければならないという橋は多くはない。

同様にハイウェーの輸送エンジニアリングサービスも当社にとって今後明るい事業拡大分野と考えサービス領域を拡大してゆきたい。

8.上下水道サービスもNY市とピッツバーグ市で継続展開

Michael Baker社の上下水道エンジニアリング事業は交通輸送分野よりも小さく、主にそのサービスは北東部地域で展開している。具体的なものとしてニューヨーク市からの受注でNewtown Creek Wastewater Treatment Plantの建設管理(construction management)サービスを提供したが、設計には携わっていない。当社はNY市環境保護部とは長期的な関係を有している。さらに、当社はNY市だけでなくピッツバーグ市の下水水道公社とも、特に合流式越流下水(CSO)サービス分野で現在も活発に取引を進めている。

【今後の戦略展開】

契約方式の転換:「設計‐入札‐建設」方式から「設計-建設」方式へ

Michael Baker社は今後益々、「設計-建設」という提供方式が増えてゆくものと見ている。同社は、伝統的な「設計‐入札‐建設」方式のものに携わっているが、このケースでは、同社は単に設計者であって(儲けは少なく)、同社にとってより旨みのある事業は明らかに「設計‐建設」にある。ハイウェイや橋梁の比較的大きな契約業務は「設計‐建設」方式であり、その場合には同社のフルサービスの提供が可能となる。そうすることで、契約先との密な関係を通して繰り返したくさんの受注を獲得することになると同社は見ている。

Kurgan氏は、今後、連邦政府関連の業務の場合も「設計‐建設」提供方式が主流になると見ている。

Michael Baker社の成長戦略:主軸路線の強化と海外展開

同社の成長戦略は、その主軸である交通輸送分野(地表交通、航空事業、鉄道)にしっかり重点を置いて、しかも連邦政府関連の防衛やホームランドセキュリティー関連省庁とそれらのインフラ事業に一層注力することである。

同社は国際市場への展開にも極めて前向きに考えているとKurgan氏は述べている。具体的には中東にオフィスを構えると宣言できる日が来ることを心待ちにしているという。そうした動機の根拠として「インフラビジネスを語るならば、それはそれへの投資が生じた場所が標的となる」との同氏の発言が注目される。

 

タグ「, , , 」の記事:

2020年7月10日
台湾環境保護署、「水汚染防止法事業分類および定義」の改正を公告――オイル貯蔵場や貯蔵施設の分類・定義を改める
2020年7月9日
米カリフォルニア州政府、飲料水中のマイクロプラスチックの定義を発表
2020年7月9日
米EPA、飲料水中の過塩素酸塩を規制しない方針を最終決定
2020年7月8日
ベトナム、水資源開発や排水の許可承認に関する手数料を暫定的に減額する通達を制定
2020年7月7日
ベトナム、水資源分野の違反に対する罰則を定める政令を制定